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トントン、と小さな音が聞こえた気がした。 「うわーっ!完成したんだね?!」 設計書どおりに作られた、僕の新しい武器。 すると差し出される小さなメモ。 「………どうしたらいいんだ……?」 ぼんやり考え事をしながら、僕は草原に向かう。 「材料はこれでいいんだけど…うーん…」 悩みながら街にもどってきて、自分の工房までの道のりを、とてとて歩いていると、灰色の鴉が描かれた看板が目に入る。 その工房の主がいることを祈りつつ、入っていった僕。 「愛に貴賎は無く、また愛の形は千差万別。」 そんな言葉をくれた主…リアンさん。 リアンさんに借りた看護道具と特製の薬をもって、レクスにいさまの工房に向かった。 -------------- にいさまの工房の扉をトントンとノックをすると、「勝手に入れ…」との声が聞こえる。 なにやら調合中のにいさまは鍋から顔を上げると、いぢわるそうな笑顔でそういった。 「……おぃ…ルーシェ…それは……」 あと3歩ぐらいで手が届きそうな距離で立ち止まるにいさま。 「だって「愛」でしょ、にいさま?」 そう答えながら、僕は特製の薬を自分の唇に滑らせる。 「……ちょっと、まて。……落ち着け、ルーシェ。」 困ったような表情で、後ずさろうとするにいさまとの距離をつっと詰めて。 ―――ガシャン………ドン………ドガッ……
「…つぅ…… 不機嫌そうな声のにいさま。 床に転がる僕、そしてその上に、にいさま。 持ちこたえられなかった僕は、そのまま床に倒れこんだのだった。 「とりあえず、どいてくださいっ… 僕の胸の辺りにあるにいさまの頭を起こすために、両手を伸ばした瞬間、僕の両手にはめた看護道具がふわっと光った。 「あ、ちょうどいいや。にいさま、ちょっとじっとしててください…」 自分の魔力をこめると、さらにその光は強くなる。 「おいっ…………どさくさにまぎれてなにしてるっ…」 僕は意識をリングに集中させ、にいさまの頭のてっぺんに唇を寄せた。 -------------- 「……ルーシェ、こっちを見るな。……しばらく目をつぶってろ…」 多少のアクシデントがあったものの、無事、看護が大成功。 「いや、でも、眼鏡ないと見えないでしょ…?僕がさがすから…」 そういった僕を、うるさいっ、と一蹴するにいさま。 いつもどおり眼鏡をかけたにいさまは、いつもどおりの口調で、いつもどおりやさしかった。 ただね…目を閉じる前に…ちらりと見えた、眼鏡のないにいさまの横顔…… みんなには秘密にしておこうと思うんだ…… |