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夏の日差
しが厳しい、とある昼下がり。 寄り合い所に顔を出すと、パリィちゃんが疲れた顔で、湿原でであったモンスターの話をしていた。 なにやら、リビングアーマーという魔物に出会って、ざくっとやられてしまったらしい。 「こんどあったら、ぜったいかつんだもん!」 そういって悔しげに唇を噛む、愛らしい年下の先輩に、僕がかけられる慰めの言葉は陳腐なものでしかない。 しかし、せめても応援の言葉を掛けようと、口を開こうとしたそのとき… ふと、パリィちゃんの後ろに何か、が見えた。 「かえりうちにしてあげるの〜」 鈴を転がすような不思議な声… そして、くすくすっといった感じの笑い声が続く。 ………えーっと? 僕は何度か瞬きして、じっと何か、を見つめる。 よく見ると、金属の仮面をかぶったパリィちゃんと同い年ぐらいの女の子…に見えてくる。 ただし…絶対に、絶対に…あれは人ではないっ! きょろきょろと、周囲のみなさんの様子を確認するも、どうやら誰も気がついていないようだ。 驚いて叫ばなかった僕を褒めて欲しいよ。 その少女は、パリィちゃんの弓矢をちらっと見ると、面白くなさそうな顔をする。 「これじゃいや〜」 そして、何かに気がついたようにこちらにふわふわと漂うように近寄ってくる。 「つるぎ〜!」 確かに、ねぎブレードは剣だけどさ?! 僕の荷物にまとわりつき、ぽつりと。 「にひゃくななじゅうねんものの…つるぎがほしいのぉ…」 そんなもん、博物館でも行かなきゃないって… ……いや、そうじゃないだろ…僕。 --------------------------------------------- 「お菓子、食べる?」 「りあま」と名乗る少女…らしきなにかの前に、 ことん、と、先日ティティさんとこにお土産にもっていったのこりのブドウのゼリーを置いてみる。 「……たべられないの」 すこしだけ悲しそうに、りあまちゃんは答え、僕が依頼用につくった地の魔力を閉じ込めた魔力珠を転がして遊びはじめた… 先ほど、集会所で僕…というか、僕がもっていた剣が気に入ったらしい、不思議な少女のような何かは、結局そのまま工房についてきた。 僕にしか見えてないみたいなので、あの場で話しかけてたら、僕は変な人だと思われてしまっただろうから、ちょうどよかったんだけ ど。 ま、いま、変な人だと思われてない確証はないけどさ。 昔から…どうも人じゃないものが近寄ってきたり見えたりしやすいらしい。 森で昼寝していると、リスやたぬきが隣におりてきて、一緒に寝てたりするし、なぜか、獣人の友達も多い。 りあまちゃんのような、普通の人には見えないもの、がみえることがある。 すごくきれいな滝の下で、可憐な少女が踊るのをみたり、古木のうろから、腕白そうな子がひょっこり顔をだして、微笑んでくれたこともある。 いつも見えるわけではないし、見えたからといって、なにかあったわけでもない。 お姉ちゃん曰く 「ルーシェはぼんやりしてるから波長が合うんじゃない?」 ……ま、そんなわけなので、仮面の少女りあまちゃんと 友好関係を築こうかと、している最中である。 「それ、気に入った?――食べてもいいよ?」 3つの魔力珠を転がして遊んでいる無邪気なりあまちゃんをほほえましく見つめつつ、ふと思いついていい加えてみる。 りあまちゃんは、魔力珠をじっとみつめ… 「これじゃだめ…もっときれいじゃないと…」 どうも、食べるには向かないものらしい。 なかなか難しいものである。 でも、機嫌はわるくなさそうである。 仮面をかぶってるから、表情がみえないので、あくまで僕の推測でしかないけど。 ふと、りあまちゃんが魔力珠を転がす手が止まる。 「るーしぇ…だれかきた…よばれてる…」 僕の名前は覚えてくれたらしい。 そして、帰るといっているのだろう。 「うん、よかったらまた遊びにおいで?」 りあまちゃんは小さくうなずくと、空気に溶けるかのように、消えてしまった。 なんとも不思議な午後の出来事であった。 -------------------------------------------------- りあまちゃんと会ったことなんて、忘れはじめた、まだまだ暑いある日のこと… 学院の掲示板の方から庭に向かって歩いていると、その先にエイミアさんの姿が見えた。 トレードマークの片眼鏡なしで虚空を見つめるエイミアさん。 つられるようにそちらを見た僕。 そこには妖精のようなものの姿がぼんやりと見える。 「ほら、ここに居てはいけませんよ?」 微笑み、手を振るエイミアさんに答えるように、風に乗って姿を消す妖精。 「……エイミアさん…いまの…」 つい、声を掛けてしまった僕に驚く様子もなく、僕に向かってふんわりと微笑んでくれるエイミアさんは、やっぱりすごい人である。 そんなこんなで、エイミアさんに先日のリアマちゃんの話をしてみることにしたのである。 ………でもね、それが…うん… 「返り討ち…ですか…ふふっ…待っていてくださいね…」 エイミアさん…魔王と囁かれる強き乙女の…炎に、油を注いでしまったことに、僕はかなり後になってから気がつくことになる。 -------------------------------------------------- 夏の日差しがすこしだけ弱くなって、空が高く凛とした空気がさわやかな風に運ばれてくるころ。 七森さんの工房に遊びに行くと、なにやらいろいろ紙を広げて設計図らしきものを書いているところだった。 「新しい素材が見つかったんだよ、ルーシェ君」 どうやら、加工値17かかる調合が15ですむぐらい、優秀な素材とのことで。 寄り合い所のマニュアル(wiki)の写しを見せてもらうと、そこには…… 「リビングアーマーのドロップ」との記載があった… ――りあまちゃん、負けちゃったんだね… ほんの少しだけ切ない気持ちになりつつ… 七森さんに、誰が…とたずねた僕に… エイミアさんとの答えは、切なさを倍増するものだったのは言うまでもなかったりもする。 七森さんの工房から帰って扉を開けると… 僕の工房のテーブルの上のねぎブレードを立てて遊んでいるリアマちゃんがいた…んだ。 「………いらっしゃい。」 なんて言葉をかけていいかわからずに、当たり前の言葉をりあまちゃんにかけた。 「やっぱり、つるぎがないとだめかもなの…」 い、いや、つるぎをもって、さらにパワーアップしたりあまちゃん…って…えっと…えっと……? ここは話題を変えたほうがいいよね…ね…? 「…みんな、りあまちゃんにみとめられて、鎧をもらいたい って思ってるんだよ、きっと… だから、みんなと遊んであげてね?」 りあまちゃんは小さくうなずくと、空気に溶けるかのように、消えてしまった。 はたして…りあまちゃんを次は誰が破るのか… そんなことを思いながら、仮面の少女の次の来訪がちょっと楽しみである… |